屋形船の男

左右に高く積まれた本がクレーンで持ち上げられるところをスマホで写真に撮ろうとするが、周囲はインスタ映えを狙う人々で溢れかえっている。まるで「本の墓場だ」と思う。

実際のところそこは産業廃棄物処理場で、本の山を抜けて行くと後輩Kに、「ちょっとここは撮影禁止ですよぉ~」と言われる。「今週の土曜あたり、焼き鳥食べながらグッと行きませんかぁ?」と手に盃を持つジェスチャーで私を誘っているようだ。

処理場のさらに奥に進むと廊下があり、ショーケース越しに焼き鳥の食品サンプルの陳列。銀杏、枝豆、黒豆などが串に刺してある。

廊下の窓の外をふと覗くと、そこは江戸川の夜景。私は再びスマホを手に取り、最適な画角を探す。iPhoneの性能が良すぎて手前の橋にフォーカスが当たることに不満だが、なんとかパンフォーカスにしようと試みる。

が、その矢先、目の前に水しぶきを上げて突如現れる屋形船。その先頭には屋形船というより人力車を引っ張ってそうな股引を履いた男が喝采を浴びながら屋形船をさばいていた。さばいていたという表現がピッタリだと思うのは、この男がオールを水面にぶつけてえっさえっさと船を漕いでいたからだ。

水しぶきを顔すれすれまで受けるその男に私は照準を合わせた。

関連記事